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ガボン共和国-ムカラバ・ドゥドゥ国立公園

「ムカラバ地域におけるインタープリテーション手法を用いた地域参加型エコツーリズム開発」プロジェクト

2017-2020年度JICA草の根技術協力事業

 

一般社団法人エコロジック

緑の国ガボン

西アフリカに位置するガボン共和国は、国土面積の80%が森林に覆われた、ゴリラやゾウなどの大型哺乳類が多く生息する、緑豊かな国です。

現在、約10万頭いると考えられている野生のニシローランドゴリラは、その80%以上がガボンとコンゴ共和国に生息します。しかし密漁やエボラ出血熱などの流行によって生息数が減少し、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅寸前(CR)に指定されています。

ガボン政府は、国土面積の11%を国立公園に指定するなど環境保全に積極的に取り組んでおり、近年は地域住民たちの生活を向上させるためにエコツーリズム開発を推進していますが、まだエコツーリズムの成功例はありません。

 

一般社団法人エコロジック

ムカラバ国立公園でのゴリラ研究

ガボンの南に位置するムカラバ-ドゥドゥ国立公園(以下、ムカラバ)では、1999年より京都大学が中心となって、霊長類をはじめ生物多様性に関する調査研究を開始しました。
2003年からは野生のニシローランドゴリラの人付け(注)を試み、2008年には1グループの群れの人付けに成功しています。

(注)人付け:エサなどを使わずに長期間追跡することによって人の存在に慣れさせ、野生動物の人への警戒心や恐怖心を軽減させる調査技術。

一般社団法人エコロジック
野生ゴリラの人付けには、現地の森をよく知っている案内人(トラッカー)が不可欠です。
一般には狩猟採集民にトラッカーを依頼しますが、ムカラバでは、ゴリラの調査研究を通じて、今まで当たり前のように感じていた自然の大切さを認識し、自分たち主体でゴリラを保護していけるようにと、国立公園近辺の農村に暮らす住民にトラッカーを依頼しています。
さらに村の女性にもキャンプキーパーとして働いてもらい、研究者とトラッカー、村人たちが家族のようにキャンプ生活を共にしました。

このキャンプ生活を長期間続ける中で、研究者と地域住民の心の距離が次第に縮まりました。そして彼らはゴリラをはじめとする、野生動植物の知識や動物の追跡能力を高めると同時に、自分たちの森やゴリラに愛着を感じるようになり、無意識のうちに環境保全に関わるようになってきました。

日本人研究者とガボン人研究者によるゴリラの調査研究は、地域住民たちの協力を得ながら現在も継続されています。

 

一般社団法人エコロジック

緑豊かな国が抱える問題

ムカラバの地域住民たちが、調査研究のサポートを通じて得る収入はわずかです。

主に農業を営み、自給自足の生活をしていますが、村の診療所での薬不足、80km以上離れた町と定期的に行き来する交通手段がないこと、小学校の閉鎖など多くの問題を抱えています。病気になれば町の病院へ行く必要があり、こどもは町の学校に通わせなければなりませんが、経済的な余裕はありません。

また近年この村では住民の流出によって若者が減少し、自然に関する知識や伝統文化が失われようとしています。

 

一般社団法人エコロジック

野生ゴリラの保護と人々の豊かな生活を両立させるエコツーリズムへの挑戦

2015年1月から2017年3月まで、自然環境や伝統文化を守り、人々の生活向上を目指して、エコロジックが中心となり、ガボンの現地NGO、国立公園局、ガボンと日本の調査研究機関と協力し、ムカラバでのエコツーリズム開発のための住民ガイド育成プロジェクトが実施されました。この結果、地域住民がエコツーリズム開発について理解したと同時に、エコツーリズムの土台となる基礎的な人材(ガイドになりうる住民と指導員)が育成され、自然と伝統文化の環境資源を集めることができました。

2017年7月から開始したインタープリテーションを用いた地域参加型エコツーリズム開発プロジェクトでは、地域住民と協力をして、主に以下のような活動を行っています。

  1. 地域NGOと住民が連携した観光振興のためのグループ作りを行い、観光客を受け入れる体制ができること
  2. コミュニティセンター設立や観光商品の製作を通して、住民が観光客のニーズに合わせた観光商品作りの技術を習得すること
  3. 住民ガイドと国が要請するエコガイドが連携し、自然や文化に関する観光プログラムを住民と協力して行うことができるようになること
  4. エコツーリズムに関わるガボンの関係機関による協議会によって、ムカラバにおけるエコツーリズム活動の情報が維持されること

当初エコツーリズムに興味を持たなかった地域住民が、先行事業によってこのプロジェクトに参加し、今では自らムカラバにおけるエコツーリズム開発に主体的に参加しようという意思を持ちはじめています。収入を得ることだけでなく観光客に伝えることによって、自分たちの自然や伝統文化を守ることができる、それらを自分たちの子孫に残していける、と話す住民もいます。彼らが主体的にムカラバでのエコツーリズム開発に関わり、ムカラバがガボンにおける最初の地域参加型エコツーリズム活動のモデルとなれるよう、日々活動しています。

 

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ムカラバのエコツーリズム開発

エコツーリズムの成功例は、実は世界でもそれほど多くありません。これは地域住民が主体的にかかわっていないことや、エコツーリズム開発の実施者と受ける側の地域住民の関係が良くないことなどが原因の一つです。

しかし、ムカラバでは長期にわたる調査研究によって、すでに日本人とムカラバの地域住民との信頼関係ができていました。さらに、長期の調査研究によるデータの蓄積があるため、科学的根拠に基づいてエコツーリズム開発を推進することができるという利点があります。

一般社団法人エコロジック
ムカラバの地域住民にとってゴリラは特別な存在です。それは日本人研究者とともに人付けし、長期にわたって調査追跡してきたあるゴリラのグループが、今では住民たちの心に最も近い野生動物になっているからです。住民たちはこのゴリラたちの家族構成や日々の出来事、それぞれの顔や性格をよく知っていて、まるで住民の一員であるかのように感じています。

このエコツーリズム開発プロジェクトで住民たちと共に考えた「自分たちの伝統を守ることがゴリラの森を守ることになる」というメッセージをこれからも観光客に伝えていき、自らの自然と伝統文化を継承していってほしいと思います。

 

 

コラム

一般社団法人エコロジック「ゴリラが好き」

安藤智恵子 / エコロジック・スタッフ

私が初めてガボンに行ったきっかけは、ただ「ゴリラが好き」という理由だけでした。
しかしガボンに10年住んでいる中で、ゴリラのこともまた、地域の人たちのことも本当の意味で理解することができるようになりました。

「どうしたらこの先もゴリラを守り、地域の人々も幸せになれるのか?」と考えた時に出会ったのが、エコロジック代表の新谷雅徳です。
彼からは、地域の人たちが主役となって初めてエコツーリズムが成り立つこと、同時に環境保全も可能であることを学びました。

エコロジックが行っているインタープリテーション技術は、まさにエコツーリズムを成功させるかどうかのカギです。
しかしこのカギは簡単に開くものでもありません。
どんなふうにカギを開けるか?開けてからどうするのか?
まだまだ考えて実行していかなければならないことが山ほどありますが、これからも地域の人たちといっしょに考えていきたいと思います。

 

 

コラム

gabon7-1「新しいゴリラとの出会い」

山極寿一 / 京都大学総長

21世紀になってから、「ニシローランドゴリラ」という新しいゴリラの調査を始めました。よく顔の知られているマウンテンゴリラとは、全く違う種類のゴリラです。動物園ではおなじみですが、これまで野生の暮らしはほとんど知られていませんでした。

安藤さんや学生たちの努力で野生種に近づくことに成功すると、次々に面白いことがわかってきました。
あの大きなゴリラが軽々と木に登る。フルーツが大好き。水を怖がらない。食べ物を分配する。歌を歌う、などなど、驚きの発見が満載の毎日です。

村人や政府の熱心な協力も得られ、この不思議なゴリラたちを多くの人に見てもらおう、世界の人々に知ってもらいながら、野生のゴリラを保護しよう、という活動を始めました。エコロジックによるエコツーリズムの研修活動です。

近いうちに皆さんがゴリラを見に行くツアーが可能になると思います。楽しみにしていてください。


福音館書店『木のぼりゴリラ』/「たくさんのふしぎ」2014年10月号
(文:山極寿一/絵:阿部知暁、福音館)
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